蟋蟀
最近寝る前に読んでいる本がある
「変身」
実家から唯一持ってきた本でいつも遠出する時ナップサックに詰め込んでいた
会話に入りたくないときやスマホを使えない場で時間を持て余したときに読んでいる
職場の机の引き出しにも一冊入っている
朝起きたとき男が虫になり、家族から隠匿されやがて冷遇されるようになり、死んだら家族ではない他人に掃除されて何事もなかったように家族は思い返し明るい明日へと向かうという終わりを迎える
学生時代にこの本を読み、僕は虫になりたいと思った
家族と仲の悪く、この中で最も不要なのは僕だから、虫になって疎外にされ追い出されたかった
兄のほうが愛されていて僕はいるのだろうか?
親にとって金ばかりかかり、手間もかかり、ただ明日を生きるだけの仕事をしている
家族にとっての毒蟲になっている
勘当という知恵の実を投げつけられてコドクに生きられない僕は弱いから
コドクになった僕の死体を見て親はどう思うのか
考えられるほど強くはないが
きっと明日への光が見られると思っている
姿のない蟲の死体を見つめてくれるだろうか
斑猫のように人を導ける虫に
飛蝗のように環境を変える虫に
蟷螂のように祈れる虫に
蜚蠊のようにどこへでも行ける虫でもない
なれはしなかった絹を生み出せぬ蚕なのだ
蚕のように生きているだけで役に立てる虫に成ることは難しい
ただの弱い毒虫の名前を忘れておくれ